地頭方をマリンスポーツのメッカに!
沿岸部の市民の命を守るための『津波防潮堤』を、すべて一律に同じ基準で建設してよいのだろうか? 美しい景観と環境によって、全国屈指のマリンスポーツの拠点となっている牧之原市南部の地頭方地区で今、市の観光やレジャー業界の未来に直結しかねない大きな問題が表面化している。駿河湾の海岸線を管理する県が、早ければ今年度中に着手する計画の「100年に1度程度の確率で発生する大津波(L1)に対応する高さ約10㍍の防潮堤の「関係者への配慮なき早急な整備」がもたらす多大なデメリットを緊急検証する。
(冷静に、客観的に現状を伝えたいので、いつもと違う新聞調の固い文章での記述をお許しください!)
地頭方区の150号線沿いで、「ジェットスキー」(水上バイク)のプロショップ『フュージョン』を経営する望月信幸さん(42)は今年3月、防潮堤建設の詳細を知ろうと、駿河湾の海岸線を管理する県の担当者のもとを訪問して、大変なショックを受けた。6年前に、地頭方から須々木海岸までに整備された6㍍の防潮堤を、L1対応として「さらに4㍍嵩上げする」だけでなく、店の前に広がる砂浜を約20㍍先まで埋め立てて、巨大な「コンクリート壁を建設する」と、説明された。
「驚きました。県の方は『市や地元住民と話し合いを重ね、(防潮堤が)できることは決まっています。平成35年までには、すべての海岸線に完成します』とおっしゃったけど、ここで、10年以上お店をやっている僕らには初耳でしたから…」。静岡市出身の望月さんは、水上バイクの世界では知らない人のいないスーパースターだ。元プロ選手として全日本王者、世界選手権4位の輝かしい経歴を持つ。御前崎港沖ある「離岸堤」の影響で、普段はほとんど波がない地頭方沖の穏やかで美しい海に魅せられて11年前に志穂夫人(43)と2人で、牧之原市に移住してきた。今は、榛南の大自然の中で、小学生と幼稚園児の2人の子どもを育てている。
東日本大震災級の大津波が発生した場合「最大1万3000人の死者が出る可能性がある」という県の想定を受け、牧之原市では沿岸部の住民とワークショップ形式の話し合いや説明会を重ね、避難タワーや津波避難ビル、避難路の整備を進める一方、海岸線を管理する県とも連携して『命を守る防潮堤検討会』等も開催し、住民の理解と合意形成を図ってきた。
その概要は…⇒ こちら!!
しかし、店舗の前の海辺に、堤防越しにクレーンで200㌔もある水上バイクを下するという形態で営業している望月さん夫婦にはこれまで、行政サイドから一切の説明がなかったという。自宅が川崎区ということは一因だが、地頭方にも1商店として「区費」その他の経費は納めてきた。「あまりにも突然のお話で…。目の前に巨大な堤防ができたら、海も見えない。私たちにとってはまさに死活問題なんですが…『市民の命の問題』ということなら…それは、それで受け入れるしかないとも思っています。でも、この先ウチの店の前で、ジェットスキーができなくなるとしても、何とかみなさんで真剣に考えていただきたいことがあるんです」と望月さんは語気を強めた。
「今、世界中で水上バイクが爆発的に普及している中で、日本だけは業界がどんどん縮小しているんです。サーフィンと違って、自家用車で波打ち際まで乗り入れることが難しかったり、行政の規制や漁業関係者の反対もある。そんな中、地頭方ではすぐ近くの海浜公園と併せて、本当に理想的な環境が整っているんです。今や日本全国を探しても、こんなに綺麗で素晴らしい水上バイクのできる海は、和歌山の南紀白浜と地頭方しかないんですよ!」。
望月さんら地元の水上バイク愛好家は、水上バイクを通じた社会貢献を目指す全国組織「シーバードジャパン」に所属。これまで御前崎市を拠点にした「シーバード御前崎」の一員として、海辺のパトロールや水難事故の救助や捜索など…行政や警察、消防、そして海上保安庁とも連携、協力したボランティア活動にも取り組んできた。そして、来たる7月1日には、牧之原市にも「シーバード相良」を立ち上げ、さがらサンビーチ周辺で同様の活動を強化していくという。その活動のためにも、水上バイクの使える環境は守っていかなければならない。決して、自分たちの趣味や商売のためだけに、声を上げているわけではないのだ。
地域全体の防災、行政が進める「安心・安全のまちづくり」の観点からいえば、長い海岸線をカバーする津波防潮堤の「一部だけ造らない」ということは、現実的ではない。しかし、それならば高さ10㍍、奥行き20㍍のスーパー堤防のどこか一部分だけでも知恵を絞って工夫して、県や市が予算を計上して…水上バイクやカヤック、ウインドサーフィンなどの機材や用具を昇降したりできる形状に変更することは、十分に可能なのではないだろうか?
さらには近隣の地頭方海浜公園には、ヨットやモーターボートまで係留できるスポットも整備し、地頭方を「一定の波の必要なサーフィン」以外のマリンスポーツの一大拠点や商業施設やテーマパークも併設された『海の駅』として大々的に、日本全国や近隣諸国へアピールしていく。富士山静岡空港、御前崎・地頭方港、そして東名高速相良牧之原ICという「空・海・陸」の拠点をフルに活用して、観光やマリンレジャーを通じて牧之原市の活性化を目指す……長い海岸線すべてが、無機質で単調なコンクリート壁が並ぶだけの牧之原市であっていいのか? 望月さんの訴えを通じて、我が市の進むべき道への分岐点が見えてきた。
こんな構想を白日夢で終わらせてよいのか? タイムリミットは迫っている。