副知事記者会見(要旨)
難波静岡県副知事記者会見(要旨)
10月2日 日本記者クラブ
明日5日の静岡県議会「危機管理くらし環境委員会」でのリニア中央新幹線のトンネル工事問題についての集中審議を前に、2日に東京・日本記者クラブで難波喬司副知事(64)が行った静岡県からの現状説明会後の質疑応答の内容を掲載します。
<質疑応答>
Q. JR東海との話し合いは平行線を辿ったままということで、第三者である国交省の調整に期待されているという話だが、どういう調整に期待するか?
難波: 今は水の問題について国土交通省が調整を、調整というか検討をされている。それで、県は「JR東海の解析は不十分だ」と言い、JR東海は「精度の高い解析をやっている」ということになっているので「どちらの言ってることが、より真実に近いんだろうか」ということを、科学的にしっかりと見ていただくというのが、大事だと思う。
専門家の言葉ではなくて、それを住民が分かるようなレベルで、解説していただくのが非常に大事だと思うので、そういったことを国土交通省にはやっていただきたい
さらに「水資源への影響」の問題と「生物多様性、自然環境への影響」の問題の2つもある。生物多様性の問題については、昨年の9月に県の専門部会を開いて以降、JR東海との対話が一切進んでいない。会議を開ける状況にない。なぜかと言うと、資料が出てこないから。したがって、国土交通省に何かやってもらおうと思っても、まだ、国土交通省はそこをテーブルに乗せるような状況にないので、この生物多様性については、県とJR東海間で、早く詰めていかないといけない。
一定程度、中身が詰まってきて、膠着状態だとか、あるいは意見の違いがある状態になると、国土交通省に出ていただいて、より中立な立場でそれについての意見をいただくというのが大事だと思う。
Q. 難波副知事は以前、8月の県の専門部会でも「JRにイチャモンをつけているように思われるのも困るので、どうしたらいいか提案する」と発言した。難波副知事は、何とか県とJRの対話が進むように尽力していると思う。一方で、川勝知事は「トンネル湧水は一滴たりとも県外には渡さない」という頑なな姿勢を貫いている。実際問題として、本当にトンネル湧水は一滴も他県に渡すわけにはいかないのか? それとも、対話が進む中で「この程度だったら、トンネル湧水の県外流出は止むを得ない」という許容範囲を見出すことができるのか?
難波: 最終的にはそういう話はあると思う。まず、ゼロリスクっていうのはありえない。例えば「これで一滴たりとも流しません」というふうに確約はできない。いくら流さないといってもリスクは残るので、それまでゼロにするということはない。どの程度だったらいいのかということは、次の段階。今はまだどの程度のトンネル湧水が出てくるのかということが明確でない。特に、山梨との県境付近で工事中に水が戻せないというのが一番問題だが、水が戻せない上に、どのくらいの量が出てくるのかもわからないというのが現実だ。
国土交通省の有識者会議でも今、議論されているが、まだ結論が出てこない。したがって「全量戻す」「戻さない」というより前にすべきこと「どんなリスクがあるのか?」「どのくらいの水が出てくるのか?」を詰めるのが先だ。それが出る前に…「次、どうしようか?」という、よく言われる〝落としどころ〟を探るということはできない。
Q. 川勝知事が「大井川の流量が毎秒2トン減る」と言っている。ただJRは環境影響評価報告書とかに「トンネルにコンクリートの覆いとか何にもしない状態では最大2トン、水が減少する可能性がある」と主張している。川勝知事の発言を聞いていると「最大で」が抜けて「常に毎秒2トン出る」ように発言しているが…県ではリスクを無意識に大きく見積もりやすいという考えか?
難波: まずは、この「2トン」というのが一人歩きをしている。河川流量の減少量が2トンなので、トンネル湧水量はもっと大きい予測になっている。それで、トンネル湧水量がどのくらいあるのかというのは、ものすごく不確実性が高い。水収支解析はJR東海のモデルで計算した結果を見ると、10倍に計算されているときもあれば、1/10に計算されていることもある。全体では平均化されるが、ある場所では10倍水が出てくる可能性もある。しかも、圧力の掛かっている水は止めようがない。したがって「後で覆えば止められます」ということは甘い。水は特に圧力が掛かっているから、一番弱い箇所から出てくる。つまり、リスクというのは、そういう危険な状態というのを想定してやらないといけない。「覆えば大丈夫です」というJRはリスクを過少評価している。
Q. 生物多様性の件だが「資料が出てこないので昨年9月以来、止まっている」ということだが、どの辺が資料が出てこない一番のネックになっているのか?
難波: 例えば…「沢が枯れるのかどうか?」という懸念について、JRは平均的には数字を出している。「年間、これだけ水が減ります」と出しているが…生物が生きる死ぬかは平均値ではない。ある瞬間の状態で、そこに水がなくなれば死滅する。だから「年間を通してどうなるんですか?」ということを知りたい。しかも、それも、ものすごく計算上の不確実性が高い。「地下水位380メートル下がる」というのも、大変な量だというのは想像できるが、本当に380メートルかどうかは分からない。だから「予測には不確実性が極めて高いので、それをどうされるんですか?」ということを聞いている。
それから「影響を回避するために、モニタリングをする」と言うが、その結果をどう評価するのか? どのくらいの量になったら「危ないから工事を止める」となるのか? 見ているだけなら「あ、減りましたね。枯れましたね。生物死にましたね」となる。したがって、どのくらい減ると予測していて、どれだけ減ったら危ないと判断し、どういう措置を取るつもりですかを聞いている。その前提には「今、どんな状態になっていると把握してるんですか?」ということも聞いているが、その資料が出て来ない。
もう1つは、先ほどの380メートル地下水位が低下するという資料は、今年の7月に初めて国土交通省に提出されたたが、環境影響評価書には書かれていない。今まで開示されていなかった。そういう資料を出していただかねば「生物にどういう影響があるのか」という評価をしようにもできないという状況にある。
Q.コロナの前と後で人の物理的な移動の意味が変わった。東京-名古屋をリニアで高速で結んでどれだけの価値があるかは、コロナ後に大きく後退したと言っていい。世間では「コロナを経てなおリニアが必要か?」という議論も高まっている。JR東海が「リニアはもうやめた」となることも、ある程度の現実味がある。リニア計画そのものが放棄されれば、静岡県としては一番ハッピーなのか?
難波: その問題については、われわれは常に申し上げている。それは、水への影響であるとか、自然環境への影響であるとかとは別問題で、ある種の価値判断が入ってくる。リニアをやるべきか? 自然環境への影響ではなくて、これからの交通体系として、リニアが必要かどうかという問題なので、それは全く別の価値判断の問題だと考える。それらを同じ土俵で議論しても、立っている基準が違うという状況になるので、あえてわれわれは申し上げない。もちろん皆いろんな考えはあるが、それをここで私が申し上げるべきことではない。
Q. 静岡県の外から見ている人は「リニア中央新幹線の駅がない」「スルーされてしまう」ということが「工事を認めない理由の1つではないだろうか?」という見方もあるが?
難波: いわゆる「メリットがあるかどうか?」ということだが…メリットがあるかどうか、ということは、人の価値判断には影響すると思う。「何かいいことがあれば、少しは仕方ないかな?」「飛行機に乗ると放射線を浴びるが、自分が選んで乗っているので仕方ないかな?」と思う。ところが一方的に、自分が選ばなかったのに放射線を浴びてしまうと…「それは一切要りません!」となる。したがって何かのメリットがあれば、リスクを多少許容するということはあるとは思う。
ただ、それは一般論であって「今回のこのリニアの問題についてはそれも切り離す」と。メリット、デメリットの問題を切り離し「水資源に影響があるのかどうか?」「自然環境に影響があるのかどうか?」。それだけをきっちり議論するのがまず大事だと私たちは思う。
Q.この問題を東京で見てまして、国策的工事に川勝知事が大手を振って待ったを掛けているという印象を持っている。大変テクニカルな問題が多いから副知事 難波さんがいらっしゃったんだと思うが、知事があえて来なかった意味は何かあるのか? 今日の会見にあたって、知事から「こういうことをちゃんと言ってこい」というメッセージはあったのか?
難波:「きっちり、何が今起きているのかを説明してくるよう」にという指示は受けた。県とJRとの間で平行線になっているので…国土交通省が仲介、助言に乗り出した。あるいは、JR東海の金子社長が知事のところにきて、こんな問題があったとか、国土交通省の藤田事務次官が知事のところに行ったけれども結局は平行線だったというようなことが、断片的にいろいろ報道で出ている。
ただ、それは、その部分だけを見ると注目すべきことだと思うが、その根底にはいったい何があるかというところは、なかなか今理解されていない。なので、そこについては知事ではなく、ある種技術的なところを含めて「しっかり説明をしてくるように」というのが川勝知事の指示だった。
Q.この問題で「静岡だけが反対している」と受け止められるのは何故なのか? もちろん南アルプスという特殊な事情があること以外に、何故他県が言わないのかというのは、静岡は今条例に基づいて動いていると思うが、条例以外に河川法の許可をする権限もあったり、〝武器〟を持っているということが影響しているのか、何故他県と静岡でこんなに違うのか?
難波: 〝武器〟の問題というよりも、影響というか、この地域の特殊性だと思う。他県の環境影響評価が適切であったかどうかっていうことをわれわれが判断すべきことではないので、他県ではきっちり影響評価を行ったんだろうと思う。ただ、静岡の場合は大井川の水の特殊性、それから自然環境の特殊性ということを踏まえると、この程度の環境影響評価は必要だろうという純粋にその点から、静岡県としては、JR東海に話をさせていただいている。
Q.難波さんの説明では、国の有識者会議に対する期待として「透明性」と「中立性」と「科学的根拠」による分かりやすい説明とのことだが、その3点について国土交通省の有識者会議の運営についてどう考えるか? 「中立性」ということでは、国交省というのはやはりリニアを推進する立場。国交省に求める中立性というのはどういうところか?
難波: 科学的根拠に基づくところだ。価値判断を先に入れない。つまり「リニアを早くやるべきである」とかを先にやらないで、純粋に「今この場所で何が起きることになるか?」「それについてはリスクは何なのか?」というのを評価していただくのが一番いい。
今委員の方々が任命されているが、相当熱心な御指導、相当と言うか、極めて熱心な指導がされているというふうに思っている。当初は、多くの方が「結論はすぐ出るんじゃないかな?」と思われたと思うが、有識者会議が開かれてから5カ月以上経ってもまだ結論は出ていない。水の問題についてだけでもまだ出ていないという状況。そこは、委員の先生方がしっかりとした議論をして、科学的根拠に基づいて、しかも一般の方、県民の方が分かるような説明をしようということで相当努力をされていると思う。実際、資料は相当分かりやすいものが出てきているので、今のような状況をきっちりやっていただけば、良い結論が出るんではないかなと期待している。
Q.今回のリニアについて、昨年の経緯であるとかを勉強すると、堂々巡りというか同じことを昨年から繰り返しているように見える。議論がどうも入口のところで止まっているような印象。湧水がどれだけなのかというところで、未だにもめている。また国の有識者会議の結論が出たら、今度は専門会議でまた検討するということになるそうだが、副知事として今何合目ぐらいまで議論が進んだと見るか? 今の進捗というのはどう見るべきなるのか?
難波: 水の問題については、県の専門部会では、なかなか議論が進んでいなかった。国の会議で、いろんな議論が進み、かなりのところまで来ているのではないか? 50%を基準にすると、それ以上になってきている。もう5カ月も経っているので、恐らく何らかの結論は出てきて、それに対して静岡県がどういうふうに評価するかということになると思う。
一方で、生物多様性について、あるいは自然環境の影響については、資料が出てきていない。しかも地下水位の影響が、先日初めて出てきて、それをどう評価したらいいのかというのは私たちも戸惑っている。従って、生物多様性については、半分はおろかせいぜい20%とか30%とか、そこまでいっているかどうかも怪しいぐらいの状況だと思う。
Q.この平行線を打破するために、例えば、県の側からルートを含めた対案のようなもの、あるいは何か見解を打ち出すようなことは、県知事は考えているとのか?
難波: 知事からは「水が戻せなかったら」あるいは「自然環境への影響が回避できなかったら」…「違うことを考えるべきではないか?」というような話は出ている。ただ「ルート変更すべき」っていうところだけ捉えるのではなくて「もしできないのならそうすべきだ」ということだ。「言っていることはちゃんとやってほしい」ということ。「環境影響評価をやり、影響を与えないようにする」ということを、まずはしっかりやって、努力していただきたいということだと思う。